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ながさきのまち・ねこ・ひとを考える

ながさきのまちとねこ

 「ながさきのまちはねこが多い」と言われます。確かに、まちで一度もねこに出くわさない日というのは少ないかもしれません。ながさきで暮らしているとそれがあたりまえに思えますが、よそから引っ越してきたひとや観光客からすると、まちにねこが溶け込んでいる風景は、ながさき独特のものに感じられるようです。

 ながさきにこれほどねこが多いのは、車が通りにくいまちの造りや冬でも温暖な気候が、ねこにとって住み心地がよい点が挙げられます。さらに「ねこに気を配るひと=ねこ好きさん」が多くいることも、まちねこたちの暮らしを大きく支えているように思われます。餌をやったり、寝床を提供したり、時には病気やケガの手当てをしたり。どこのまちにもそういうひとはいますが、ながさきはそういうひとの数がとりわけ多いまちだと感じます。ただし、ねこ好きが多いからねこが多いのか、それとも、ねこが多いからねこ好きが多いのかは、タマゴとニワトリですけれどもね。

まちねこ調査での発見

 まちねこ調査でまちを歩いていると、ねこの姿は見えなくても、確かにこのまちにはねこがいる、とすぐにわかることがあります。餌が半分残ったお皿、物陰に目立たぬように置かれた発泡スチロールのねこハウスなどは、そのまちのねこ好きさんがねこに気を配っている証です。

 一方で、あたりに漂うねこの糞尿臭や、そんなねこのオトシモノに迷惑するねこ困りさんが設置する侵入防止ネット、ねこ避けのトゲトゲ、餌やり自粛を求める種々の看板・貼り紙もまた、まちねこがそこにいる―それもかなりたくさんいることを示しているのです。

 こうした「ねこ存在の手がかり」は、角度を変えて眺めれば「ねこに対するまちのひとびとの気持ちの表われ」でもある、ということに気づくまでにはさほど時間はかかりませんでした。あからさまに示された「ひとびとの気持ち」を地図上に展開すれば、〈まち〉と〈ねこ〉と〈ひと〉が複雑に入り乱れ、絡み合う現状が手に取るようにわかります(「町ねこ調査マップ|ながさき町ねこハンドブック3」参照)。

 さらに聞き取りをまじえた調査を重ねると、それほど絡み合った3者の関係は、実は驚くほどかみ合わず、すれ違っている、ということもまたわかってきたのです。

すれ違うまち・ねこ・ひと

 ねこ好きさんから例を始めてみましょう。ほとんどのねこ好きさんは、ねことは正面から向き合っているように見えますが、ねこのオトシモノとそれに困るねこ困りさん、さらにそれがまちの環境を損なう問題については見て見ぬふりをするケースが少なくありません。ねことは向き合うけれど、ねこ困りさんやまち(の環境問題)とはすれ違ってしまっている。自分を慕ってくれるねこたちの健気でかわいらしい部分だけを満喫して、それ以外の困った部分は切り捨ててしまっているのです。

 一方、ねこ困りさんは、まちの環境には少なからず気を配り、それを損ないかねないねこや餌やりさんのことを快くは思っていません。では、ねこ困りさんは、ねこや餌やりの問題に正面から取り組むのか、というと決してそうではなく、「ねこが自分のまちからどこかへ出て行ってくれればいい」「餌やりは禁止すれば(ねこはどうなっても)いい」と考えているケースが大半です。自分のまちは大事に思っているけれど、ねこやねこ好きさん、あるいは隣のまちとはきちんと向き合えていない。

 ねこは、単なる迷惑な糞尿製造器ではありませんし、かといって可愛らしく癒やしを与えてくれるばかりの存在でもありません。そんなねこを愛するのも、逆に不愉快に思うのも、それぞれに理由はあるでしょうが、その意見の食い違いは住民間のトラブルを引き起こします。ねこ好きさんとねこ困りさんが正面から向き合って、互いの意見にも耳を傾けながら、よりよいまちづくりへと進めていければよいですが、現状は「すれ違い」です。

まち・ねこ・ひとを向き合わせる

 では、この「すれ違い」はどのように交通整理すれば、お互いがきちんと向き合えるのでしょうか。

 そもそも、まちのねこ問題について、ひとびとが正面から向き合って解決に取り組む活動としては「地域ねこ活動」があります。住民間の話し合いを通じて、ノラねこを地域で管理していくための合意を形成し、不妊化手術を施して徐々にねこの数を減らしていくのが、その活動の主眼です。

 しかし「地域ねこ活動」を実際に進めるにはまだまだ障害が多い、というのが実情です。まち・ねこ・ひとが絡み合いながらもすれ違っている現状では、それぞれが伝えたいこともなかなかうまく伝わらない。話をする前提・共通の土台がないのです。

 どこにどんなねこがどれだけいるのか、それに対してひとびとはどんな思いを抱いているのか。まちねこ調査によって明らかになるねこの生息データや調査マップは、互いに異なる意見を持つひとびとが話をするための前提・共通の土台になるとわたしたちは考えています。

 まちねこ調査を通じて、ひとがきちんとねこと向き合い、まちと向き合い、他のひとびとと向き合う。そのことが、ながさきのまち・ねこ・ひとのよりよい関係を築いていくための第一歩になる。そんなふうにわたしたちは提案したいと思います。

長崎の町ねこ調査隊塾・副塾長 中村 淳

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